監修:帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科 病院教授  関 順彦 先生

がん患者さんと仕事 ~がんと付き合いながら働く~

(1)診断から復職まで

■がんと診断されたら

働いていてがんと診断されたら、「仕事はどうしよう?」「働き続けられるだろうか?」と、心配になったり不安にかられたりすることでしょう。なかには「治療に専念したい」「職場に迷惑をかけたくない」などの理由から、早い段階で退職を選ぶ人もいます。しかし、これから詳しい検査を行って治療計画が決定し、今後の見通しが立てば、治療を受けながら働くことも十分可能です。

●まず産業医と相談する

一定以上の規模の企業には、従業員の健康に関する問題を取り扱う産業医がいます。産業医は、業務による健康障害を予防する役割を担っており、うつ病やがんなど病気を抱えた従業員の支援を行っています。病気によって就業上なんらかの配慮を会社に求めたい場合には、まず産業医と相談しましょう。産業医は人事部とも連携しながら必要な配慮について「意見書」という形で会社側に提案してくれます。

●自分の労働条件を確認する

就業において必要な配慮は産業医から会社に提案されますが、最終的には就業規則に基づいて働き方が決められますので、自分の労働条件も確認してみましょう。

がんと診断されたら、検査や治療で入院や通院するために会社を休まなければいけない状況も出てきます。休職は法律で定められている制度ではなく、導入の有無や内容は各社の裁量に任されています。就業規則の「休職/欠勤」などで、利用できる休職制度や休暇制度はあるか、有給休暇や欠勤の取り扱いはどうなっているか、確認してみましょう。わからない場合は、会社の担当部署(派遣社員の人は派遣会社に)確認しましょう。

就業規則で確認すべきこと

就業規則で確認すべきこと就業規則で確認すべきこと

青儀健二郎、飯野京子 監. がん患者の「知りたい」がわかる本. じほう, p233-235, 2016.

●主治医に治療計画を確認する1, 2)

どれぐらい休職する必要があるか、主治医に治療計画を確認し、必要があれば診断書を書いてもらいます。最終的な治療計画が決まっていない場合は、最も可能性の高いシナリオに基づいて、会社に休みを申請するとよいでしょう。産業医は診断書に基づいて就業上必要な配慮を検討・提案します。

主治医は患者の職場や働き方について詳しく知っているわけではありません。仕事に関して相談する場合は、自分の職種や業務内容をふまえて、できるだけ具体的に聞くことが大切です。

国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービス「がんと仕事のQ&A」より作成(2017年10月時点)

●どれぐらい休職できるか、会社と話し合う

どれぐらい休めるかを会社と話し合います。会社側が善意で対応してくれても、就業規則から外れていたために十分な支援が得られなかったケースもあります。話し合いは就業規則をもとに行うようにしましょう。また、会社によって制度の運用の仕方は違います。有給休暇や欠勤の取り扱い、復職のプロセスなどについて、ここでよく確認しておきます。

病気のことを会社の誰にどこまで伝えるか、診断書を提出する場合は個人情報がどう取り扱われるかなどについても、担当者と話を詰めておきましょう。

■お金の問題

がんはお金のかかる病気です。一方で、がん患者さんが利用できるさまざまな社会保障制度もあります。どのような制度が利用できるか会社担当者または健康保険組合の窓口(国民健康保険、後期高齢者医療制度の場合は市町村役場)に確認してみましょう。

  • 高額療養費制度
    年齢や所得に応じて、一定限度額以上の医療費が免除される健康保険の制度です。医療費の自己負担が上限額を超えた場合に、その超えた金額分が高額療養費として支給されます。高額療養費の支給を受けるには、“認定証”を事前に掲示して窓口での自己負担を上限額までとする方法と、いったん窓口で自己負担を全額支払った後に申請により上限額を超えた金額の払い戻しを受ける方法があります。
    支給を受けるための手続きは健康保険によって異なりますので、詳しくは、ご加入の健康保険組合にお問い合わせください。
  • 医療費控除
    確定申告で年間の医療費(交通費や装具などを含む)を申告することで、所得控除を受けられる場合があります。
    国税庁 http://www.nta.go.jp
  • 傷病手当金制度
    療養のため3日以上仕事できない場合、4日目から傷病手当金の給付を申請できます。休業1日あたり標準報酬日額の2/3に相当する手当金が、最長で1年6カ月間、健康保険から支給されます。
    加入する健康保険組合によっては利用できる内容が異なるため、利用にあたっては会社担当者または健康保険組合の窓口にご確認ください。

    <注>健康保険の保険者によっては給付の対象とならない場合があります
    全国健康保険協会(協会けんぽ):制度あり
    健康保険組合:独自の制度あり、加入先の保険者に要確認
    市町村が行う国民健康保険:制度なし

  • 民間保険
    民間の生命保険や医療保険、がん保険などに入っている場合は、保険金給付の対象になるか、「約款」や「契約内容のお知らせ」などで確認してみてください。

■利用できる相談窓口

【行政機関ほか】

●独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター
がん情報サービスサポートセンター(がん情報の案内、治療や療養に関する相談)
ナビダイヤル 0570-02-3410 受付時間:平日10時~15時(土日祝日、年末年始を除く)

●全国のがん診療連携拠点病院
がん相談支援センター(がん治療や療養生活全般の質問、相談)
「がん相談支援センターを探す」(国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービス)

【患者支援団体】

●一般社団法人CSRプロジェクト
就労セカンドオピニオン~電話で相談・ほっとコール~(がん患者さんの就労や雇用継続に関する相談)

●NPO法人がんと暮らしを考える会
がん制度ドッグ(がん関連の公的・民間医療保険制度検索ウェブサービス)

●患者さんの困りごと相談窓口
どうするBOKS(がん患者さんの生活や経済的な相談)

 

(2)復職後

■復職のめやすとタイミング

治療が終わり、体調や生活が落ち着いてくると、多くの人が具体的に復職のことを考えはじめます。しかし、長く休んでいると、それだけで不安を感じたり、長い療養生活のために体力が落ちていたりすると、復職への不安はさらに大きくなります。

このような不安は誰もが抱くことですので、ひとりで悩まずに、まずは担当の医師に復職が可能な心身の状態について相談しましょう。

相談するポイントは次のような点です。

  • 仕事に対する自分の気持ち
  • 通院(外来化学療法や検査)のタイミング
  • 抗がん剤治療による副作用の症状や程度
  • 抗がん剤治療による副作用の仕事への影響
  • 復職にともなう病状悪化のリスク
  • リスクを避けるために注意すべきこと

無理なく復職するためには、早めの情報収集(労務面、医療面)と段取り(会社や周囲の人への働きかけ)が大切です。

■復職の後の働き方

●無理のない働き方をするために

復職後は病気になる前と同じように働くのは難しい場合がほとんどです。仕事に復帰したばかりで頑張りたい気持ちもあるでしょうが、無理をして体調を崩せば、かえって同僚や会社に迷惑をかけてしまうかもしれません。

自分にとっても、会社にとっても、継続的・安定的に仕事をすることが大切です。そのためにも頑張り過ぎない工夫をしましょう。

●無理のない通勤のための対策

だるさや痛み、排泄頻度の変化などで、病気になる前よりも通勤に苦痛を感じることがあるかもしれません。そのような場合は、薬などで症状を最小限に抑えて苦痛を和らげることが大切です。通勤に支障をきたすような症状があることを担当の医師に伝え、もっと症状が抑えられないか相談してみましょう。

人工膀胱や人工肛門(ストーマ)を装着している場合や、排泄頻度の変化により通勤途中で急にトイレを利用する可能性がある場合は、事前に使いやすいトイレを確認しておきましょう。また、トイレに行く時間を十分に確保できるように、余裕をもって家を出ましょう。

一時的にでも混雑する時間帯を避けた出勤時間に変更してもらうことを会社に相談してみましょう。あなたの状態を明確に伝えることで、もっと良い働き方が見つかるかもしれません。

●外見が変わったときの対策

治療の影響で外見が変わってしまうことがあるかもしれません。そのような場合は、化粧品やかつらなどを使うことで補正することもできます。黒ずんだ肌を隠すためにファンデーションを使うことで、人前に出るのが苦痛でなくなったという男性もいます。脱毛については、多くのかつらメーカーが頭皮への刺激などを考慮した医療用のウィッグ(かつら)を販売していますし、眉毛や睫毛についてはメイクで工夫することができます。

全国の「がん相談支援センター」でも、がん患者さんに必要なさまざまな情報を得ることができます。

■周囲とのコミュニケーション

●病気の公表について ~職場における理解者を~

病気を公表することで生じる何らかの影響が心配で、仕事関係の人たちに知らせようか迷うことがあるかもしれません。しかし、一緒に仕事をする人たちに病気のことを正確に話し、理解を得ておくことで仕事を続けやすくなると思います。体調が悪くなった時にも職場にひとりでも理解者がいると心強いですし、通院などで仕事を休まなければならない時も心の負担が軽減できると思います。

がんとまでは言わなくても、病気療養中であることは伝えることができればよいと思います。病名を職場の全員に公表する必要はありません。信頼できる上司や同僚、ひとりでもよいので、あなたの理解者をつくりましょう。

●副作用に対して同僚の理解を得るために

副作用のあらわれ方には個人差があり、また、同じ副作用でも仕事の内容によって影響はさまざまです。ただ、副作用があらわれた時のために職場の人たちにはあらかじめ理解を得ておくとよいかもしれません。まず上司に相談し、どのような影響があり、どのような対処を行う必要があるか理解を得ましょう。

職場の人たちに副作用の説明をする時には、あなたが医師から受けた説明を参考にしながら、わかりやすい言葉で伝えましょう。あなた自身の言葉で、病気療養中であること、治療によって体調の変化がいつ頃、どのように起きるのか、そんな時にはどうするのがよいのかなど、話をしておくと、副作用が起きた時にあなただけでなく、職場の人たちにも心構えができると思います。

●同僚への気遣いを忘れずに

仕事を代わってもらった時など、あなたをカバーしてくれた時には「ありがとう」と感謝の気持ちを声に出しましょう。通院などで休む時にも前日などに機会があれば、「明日は通院でお休みをいただきます。すみません」と明るく言っておくと、心おきなく休めると思います。申し訳ないと思い過ぎて卑屈になる必要はありません。明るい一言があなたの心も職場の人の心も軽くしてくれると思います。

■前向きになれない時

●体調が悪い時

体調が悪く、仕事への意欲が維持できない場合もあると思います。そんな時には無理をしないことです。日頃からコミュニケーションをとり、職場の人たちにも体調に波があることをわかってもらうことも大切です。体調は徐々に落ち着いてくるとはいえ、体調が悪い時には気持ちも落ち込んでしまうものです。そんな時には無理に頑張らずに、ゆっくり休んで調子が良くなるのを待ちましょう。調子が良くなったら、カバーすればよいのです。メリハリが大切です。

●今までの仕事を続けることに無理を感じる時

後遺症で体調が不安定だったり、自分の年齢のことを考えて、今までの仕事を続けることに無理を感じる時があるかもしれません。そんな時には、自分が培ってきた技能を振り返ってみてはいかがでしょうか。強みや得意領域は何でしょうか。現状の体調で継続できそうなことはありませんか。一部を誰かに代わってもらって、やれそうなことはありませんか。ひとりで悩まずに、ご家族や職場の方に相談してみましょう。患者会などで、他の患者さんの体験談を聞くのも役立つと思います。違う目線を持つ人の話を聞けば、また良いアイディアが生まれてくるかもしれません。

 

(3)新しい職場を探す時(就職活動)

■がん患者の再就職支援制度について

病気によって一度退職しても、体調が回復した時に再就職を検討することは多いと思います。そんな時には地域のハローワークを活用するのもよいでしょう。ハローワークでは、さまざまな仕事の相談を受け付けており、求人情報の提供や職業訓練も含めた就労支援を行っています。

また、がんなど病気の治療のために離職や転職を余儀なくされた患者さんを対象に、厚生労働省による長期療養者就職支援事業が進められており、ハローワークには専門の就職支援ナビゲーターも配置されています。個々の患者さんの希望や治療状況をふまえた職業相談・紹介、就職後の職場定着のための支援が行われていますので、お近くのハローワークの窓口で相談してみましょう。その際、事前に自分のことを振り返って、①今までしてきたこと、②できること、③これからやりたいことなどをまとめておくと、話がしやすいかもしれません。

■再び働く自信がない時

興味がある求人を見つけても、体調や後遺症の問題で、再び働くことに不安を感じる場合があるかもしれません。しかし、興味があり、「できそうな仕事」と思えるようなら、応募してみてはいかがでしょう。せっかくの機会を大切にしてください。体調に不安がある場合には、そのことを正直に話した上で、あなたの職能をしっかりアピールしてください。その仕事のどんな所であなたの能力が活かせるのか、あなたがその会社にどれだけ役に立てるのかを具体的に話しましょう。働けるかどうかは、その会社が判断する話で、応募する前にあなたがあきらめることではないと思います。 就職はその会社との相性とご縁ですので、病気の有無にかかわらず、誰にとっても楽なことでありません。採用されなかった場合は、病気以外のところにも理由があるかもしれません。

<参考文献およびサイト>

  1. 1)青儀健二郎、飯野京子 監. がん患者の「知りたい」がわかる本. じほう, 2016.
  2. 2)国立がん研究センターがん情報サービス(2016年10月時点)
  3. 3)CSRプロジェクト 編. がんと一緒に働こう!必携CSRハンドブック. 合同出版株式会社, 2010.