肺がんの治療


薬物療法

●薬物療法とは

薬物療法は、注射や飲み薬で投与された薬剤が血液の中に入り、血流にのって全身をめぐり、肺のみならず、体中に広がったがん細胞にも効果をしめすことが期待される治療です。
どの薬剤を用いて治療を行うのかは、肺がんの組織型(非小細胞肺がんと小細胞肺がん)、肺がんの病期(進行の程度、ステージ)、患者さんの全身状態(治療に耐えうる体力)や年齢などを考慮して決定されます。また、作用の異なる薬剤を組み合わせて用いる併用療法も広く行われています。

 
 

肺がんの薬物療法に用いる薬剤は、作用の違いにより『殺細胞性抗悪性腫瘍薬』『分子標的治療薬』『免疫チェックポイント阻害薬』の3つに大きく分けられます。

●殺細胞性抗悪性腫瘍薬

殺細胞性抗悪性腫瘍薬の種類

肺がんに対しては、プラチナ製剤に分類される抗悪性腫瘍薬および1990年以降に承認された第3世代抗悪性腫瘍薬と呼ばれるものが、主に用いられています。
殺細胞性抗悪性腫瘍薬は、がん細胞だけでなく正常な細胞にも作用するため、様々な副作用が現れます。

殺細胞性抗悪性腫瘍薬の分類
プラチナ製剤 抗がん性抗生物質
代謝拮抗薬 微小管阻害薬
トポイソメラーゼ阻害薬  

殺細胞性抗悪性腫瘍薬の副作用

副作用は抗悪性腫瘍薬の種類によって異なり、発現頻度・程度・時期にも個人差があります。抗悪性腫瘍薬によっては、アレルギー反応、悪心(吐き気)・嘔吐などが高頻度に出現することがわかっているため、予想される副作用を予防するための薬剤などを併用しながら治療を行います(支持療法)。

【主な副作用と発現時期の目安】
主な副作用と発現時期の目安

西條長宏 編「インフォームドコンセントのための図説シリーズ 抗悪性腫瘍薬 肺がん 改訂版」(医薬ジャーナル社)、p11

●分子標的治療薬

分子標的治療薬とは

分子標的治療薬は、がんの増殖や悪性化の原因と考えられているがん遺伝子やがん関連タンパク質、がんの成長に関わる様々な因子を標的として開発されており、がん細胞が増殖しにくい環境を整えます。
分子標的治療薬は、がん細胞に特徴的な因子を標的にしているため、従来の抗悪性腫瘍薬(殺細胞性抗悪性腫瘍薬)と異なり正常細胞に対する影響は比較的少なく、高い効果が期待されています。一方で、標的となる因子が正常細胞にも存在する場合があるため、副作用がまったくないわけではありません。

 

分子標的治療薬の種類

現在、国内で肺がん(非小細胞肺がん)に対する治療薬として承認されている分子標的治療薬には、EGFR阻害薬、ALK阻害薬および血管新生阻害薬があります。
EGFR阻害薬とALK阻害薬については、限られた遺伝子変異などを標的とするため、すべての患者さんに効果を示すわけではありません。そのため、肺がんと診断が確定後、事前に遺伝子診断で遺伝子変異の有無を確認し、薬剤の効果を予測する必要があります。

EGFR:上皮成長因子受容体と呼ばれるタンパク質、ALK:未分化リンパ腫キナーゼと呼ばれるタンパク質

 
「ALK融合遺伝子」「EGFR遺伝子変異」があるかどうかを確認

分子標的治療薬の副作用

殺細胞性抗悪性腫瘍薬では、薬剤によって差はあるものの、脱毛や吐き気、倦怠感、血液に対する副作用などが共通して認められます。
分子標的治療薬ではそれらの副作用は少ないとされていますが、一方で、殺細胞性抗悪性腫瘍薬ではみられない、間質性肺炎、肝臓の機能低下、視覚障害、肺出血など、薬剤それぞれ特有の副作用が出現することがあります。重症化する場合もあるので、定期的な経過観察が必要となります。

●免疫チェックポイント阻害薬

免疫チェックポイント阻害薬による免疫療法とは

人の体内には、病気を引き起こす細菌やウイルス、がん細胞などの異物から体を守るために「免疫」という働きが備わっています。免疫は異物を見つけると排除する一方で、その作用が過剰になり炎症などで体を傷つけないようにブレーキをかける機能も備わっています。

誰の体内でもがん細胞が発生しますが、免疫が働くことで、それらが排除され、健康が保たれています。がん細胞は正常な細胞が変異して起こりますが、がん細胞とわかる標識(抗原)を出しています。免疫の一員(免疫細胞)であるT細胞などはその抗原を感知して、がん細胞を攻撃します。
しかし、がん細胞も生き残るために、がん細胞と感知されないようにしたり、T細胞の表面にあるPD-1というポイントにシグナルを送って(PD-1経路)、がん細胞への攻撃にブレーキをかけることで、免疫の攻撃から逃れています。

 
【がんによる免疫機能の悪用】がん細胞表面にあるPD-L1という物質がT細胞表面のPD-1と結合することにより、がん細胞への攻撃にブレーキをかけるシグナルが発信されます。

免疫チェックポイント阻害薬による免疫療法は、T細胞にブレーキをかける過程でチェックポイントとなるPD-1経路にピンポイントで働きかけて、T細胞のブレーキを解除し、免疫を再び活発にする治療法です。
免疫チェックポイント阻害薬そのものは、直接がん細胞を攻撃することはありませんが、免疫を高めることでがん細胞を間接的に減らします。

 
【免疫チェックポイント阻害薬のはたらき】免疫チェックポイント阻害薬はPD-1とPD-L1の結合を阻害することによって、がん細胞からT細胞に送られているシグナルを遮断します。その結果、T細胞のブレーキは解除され、がん細胞への攻撃を再開します。したがって、免疫チェックポイント阻害薬はPD-L1高発現の肺がんによく効くと考えられています。

免疫チェックポイント阻害薬の副作用

免疫チェックポイント阻害薬はがん細胞によって抑えられていた免疫力を復活させるため、免疫が働き過ぎることによる副作用があらわれる可能性があります。