治療
治療方針 1)
頭頸部がんでは、外科療法、放射線療法、薬物療法を組み合わせ、それぞれの患者さんに合った治療を行います。
患者さんの全身状態(年齢や病歴、合併症など)やがんの発生した場所・進行度、また治療後の生活への影響などを踏まえて、外科療法、放射線療法、薬物療法を組み合わせた治療方針を主治医の先生と一緒に決定します。
1)日本頭頸部癌学会 編.頭頸部癌診療ガイドライン 2022年版, 金原出版, p14-p25, 2022
外科療法(手術) 2)
手術によってがんを取りのぞく治療法です。頭頸部は食事や会話、呼吸、外見といったQOL(Quality of Life:生活の質)に深く関わるため、治療時には治療効果と生活への影響のバランスを考慮します。がんを十分に取りのぞき、かつ術後の生活をできるかぎり維持できるような手術を行います。
がんを取りのぞく範囲が広く、手術後の外見や機能に影響が出る場合は、皮膚や骨などを移植してなるべく元の状態に戻すための手術(再建術といいます)を行います。また、手術により飲み込みや発音が難しくなった場合はリハビリテーションを行います。
進行がんの場合は、手術単独ではなく、薬物療法や放射線療法を組み合わせた治療を行います 3)。
2)田原信 他(編). 臨床頭頸部癌学-系統的に頭頸部癌を学ぶために-改訂第2版, 南江堂, p116-p177, 2022
3)日本頭頸部癌学会 編. 頭頸部癌診療ガイドライン2022年版, 金原出版, p14, 2022
放射線療法 4, 5)
放射線療法はがんやそのまわりに放射線を照射し、がん細胞を死滅させたり、小さくする治療法で、治療部位の機能や外見への治療後の影響が少ないことがメリットです。
治療スケジュールは一般的には1日1回3~5分、週5回、合計35回で約7週間です。
<例>1回2Gyの照射を週5回、7週間 (総線量は70Gyになります)
放射線療法に伴う副作用として、治療中および治療後約3ヵ月以内にあらわれる急性期障害と、治療後約6ヵ月~数年経ってからあらわれる晩期障害があります。治療後は、長期にわたって副作用への注意が必要です。
4)丹生 健一 他(編). 頭頸部がんの化学放射線療法. 日本看護協会出版会, p34-p40, 2015
5)秋元 哲夫. 日本臨床増刊号 頭頸部癌学. 日本臨床社, p427-p436, 2017
薬物療法
薬物療法は、放射線療法と組み合わせて行う場合と、薬物療法のみを行う場合があります。多くの場合、進行がんに対して行われます。
①放射線療法の治療効果を高める目的で、放射線療法と薬物療法を併用します(化学放射線療法)。
②外科療法や放射線療法を行わない場合、遠隔転移がある場合などに薬物療法を実施します。
③外科療法や放射線療法の前(導入化学療法)や後(補助化学療法)に行う場合もあります。
薬物の種類
殺細胞性抗悪性腫瘍薬
がん細胞の分裂・増殖を抑える薬です。
DNAの複製を抑えてがんを小さくするプラチナ製剤、細胞の成長や分裂を抑えてがんを小さくする代謝拮抗剤、細胞分裂の働きを抑えてがんを小さくする微小管阻害薬(タキサン系薬剤)など種類は多くありますが、頭頸部がんに対しては、一般的にプラチナ製剤が用いられます。
分子標的治療薬
がんの発生や増殖に関わる分子を狙い撃ちする治療薬です。がん遺伝子やがんのタンパク質などを標的としてその働きを阻害し、がん細胞の増殖を抑えます。
免疫チェックポイント阻害薬
がん細胞は増殖するために、人に本来備わっている免疫細胞が、がん細胞を攻撃する機能にブレーキをかけます。免疫チェックポイント阻害薬は、このがん細胞によるブレーキを解除し、本来の免疫細胞を活性化させます。免疫チェックポイント阻害薬そのものが、直接的にがん細胞を攻撃するのではなく、免疫細胞を活性化することで間接的にがん細胞を攻撃します。
副作用への対策 6, 7)
外科療法、放射線療法、薬物療法はいずれもがん細胞に対して効果がある一方、まわりの正常な細胞に対しても影響を及ぼすため、副作用が出る場合があります。治療による副作用や合併症をできるかぎり抑える目的で行うのが「支持療法」で、大きく分けて「予防的介入」と「対症的介入」の2つがあります。
予防的介入
目的:副作用や合併症が出る前に行うことで、副作用や合併症の頻度を下げます。
- 薬物療法による吐き気を予防するため、予め吐き気を抑える薬を飲みます
- 口の中が不衛生になり、肺炎などの感染症が発生するのを防止するため、こまめなうがいなどを行います
対症的介入
目的:副作用や合併症が出た場合に行い、その被害を最小限に抑えます。
- 放射線療法による口内炎などの副作用の痛みをやわらげるため、痛みを抑える薬を飲みます
- 口の中の乾燥を防ぎ、痛みをやわらげるため人工唾液などの保湿剤を使います
- 放射線療法による皮膚炎などの副作用に対してスキンケアを行い、炎症やかゆみをやわらげます
など
6)日本頭頸部癌学会 編.頭頸部癌診療ガイドライン 2022年版, 金原出版, p26-p30, 2022
7)全田貞幹. 日本臨床増刊号 頭頸部癌学. 日本臨床社, p503-p509, 2017
再発・転移後の治療
再発とは、治療後にがんがふたたびあらわれたり、他の臓器に転移したりすることをいいます。再発後は、一般的にプラチナ製剤と代謝拮抗剤、分子標的治療薬などの併用による薬物療法や、免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療を行います。
ただし、患者さんによってはこれまでにプラチナ製剤で治療し、効果が得にくいことがわかっている場合があります。こうした患者さんでは再発後にプラチナ製剤の効果が期待できないため、他の治療法を検討します。
監修:塚原 清彰 先生
東京医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学分野 主任教授
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