乳がんとは
乳房の仕組みと乳がんの発症
乳房の仕組みと乳がんの発症*1,2
乳房は、乳腺と脂肪、それらを支える結合組織からできています。乳腺は、さらに、母乳をつくる「小葉」と、母乳を乳頭に運ぶ「乳管」に分けられます。乳がんは、この乳腺の上皮細胞から発生する悪性腫瘍(がん)で、多くが乳管から発生します。
乳がんの発生部位
・乳管からの発生 約90%
・小葉からの発生 約5~10%
阿部恭子ほか 編. 乳がん患者ケアパーフェクトブック. 学研メディカル秀潤社, p10, 2017. より作図
*1. 阿部恭子ほか 編. 乳がん患者ケアパーフェクトブック. 学研メディカル秀潤社, p10, 2017.
*2. 山内英子 編. 実践!遺伝性乳がん・卵巣がん診療ハンドブック. メディカ出版, p44, 2017.
乳がんの種類*3
乳がんは大きく「非浸潤(ひしんじゅん)がん」と「浸潤(しんじゅん)がん」に分けられます。非浸潤がんは、がん細胞が乳管内や小葉内にとどまっている早期のがんをいいます。非浸潤がんでは、適切な治療を行えば、多くの場合、がんが他の部位に転移したり再発することはほとんどありません。
一方、浸潤がんは、がん細胞が乳管や小葉の外にまで広がっている(浸潤している)ものをいいます。浸潤がんでは、転移したり再発する可能性があります。
日本乳癌学会 編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2023年版, 金原出版, p104, 2023. より作図
*3. 日本乳癌学会 編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2023年版, 金原出版, p104, 2023.
乳がんの特徴*4
乳がんの患者数
乳がんの患者数は年々増加傾向にあります。2019年の調査では日本人女性が罹患するがんの第1位です。2019年に日本全国で乳がんと診断されたのは110,728人 でした(上皮内がんを含む、男女)*4。
乳がん:患者数の推移
(全国推計値/女性 1975~2015年)
国立がん研究センター がん情報サービス「がん登録・統計」(2023年11月時点)
乳がんの年代別罹患率
乳がんは、40〜70代の女性に多くみられるのが特徴です。70代後半から徐々に減少します。
乳がん:年代別の罹患率
(全国推計値/女性 2019年)
国立がん研究センター がん情報サービス「がん登録・統計」(2023年11月時点)
*4. 国立がん研究センター がん情報サービス「がん登録・統計」(2023年11月時点)
乳がんの症状
乳がんの症状*5,6
代表的な症状は、乳房の「しこり」です。乳がんによるしこりは硬く、境目がはっきりしていないのが特徴です。しこり以外では、乳房のへこみやひきつれ、乳頭や乳輪に湿疹やただれや、乳頭から血の混じった分泌物が出る、などの異常で気づかれることもあります。
注意すべき症状
*5. 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん」(2023年11月時点)
*6. 日本乳癌学会 編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2023年版, 金原出版, p24-25, 2023.
乳がんのリスク要因*7-9
乳がんの発生には、女性ホルモンのエストロゲンが深く関わっていることが知られています。初経が早い、閉経が遅い、出産経験がない人は、エストロゲンの分泌量が多い期間が長くなるため、リスクが高いと考えられます。
閉経後の肥満や飲酒の習慣、喫煙なども乳がんを起こしやすくします。また、家族(血縁者)に乳がんや卵巣がんになった人がいるといった遺伝的な要因も報告されています。そのほか、乳腺疾患になったことがある人なども、乳がんリスクを高める要因となります。
エストロゲンおよび妊娠/出産/授乳の影響
・初経が早い ・閉経が遅い ・出産経験がない
・初産年齢が遅い ・授乳経験がない
・ホルモン補充療法を長期間受けた など
生活習慣
・閉経後の肥満 ・飲酒 ・喫煙 など
遺伝的要因
・家族(母親や姉妹などの血縁者)に乳がんや卵巣がんになった人がいる
・乳がんにかかりやすい特定の遺伝子変異(BRCA1/2遺伝子など)がある
その他
・良性乳腺疾患になったことがある ・糖尿病
・マンモグラフィで乳腺濃度が高い など
*7. 日本乳癌学会 編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版, 金原出版, p218-239, 2023.
*8. 国立がん研究センター がん情報サービス 「乳がん 予防・検診」(2023年11月時点)
*9. 日本乳癌学会 編. 乳癌診療ガイドライン ②疫学・診断編 2022年版, 金原出版, p25-28, 2022.
早期発見/早期治療の重要性*10,11
乳がんの早期発見、早期治療につながる重要な生活習慣を「ブレスト・アウェアネス」といいます。日頃から自分の乳房の状態に関心をもち、乳房を意識して生活しましょう。もし、乳房の変化を感じたら、なるべく早く医療機関を受診しましょう。
ブレスト・アウェアネス 4つの項目
①自分の乳房の状態を知るために、日頃から自分の乳房を、見て、触って、感じる(乳房のセルフチェック)
②気をつけなければいけない乳房の変化を知る(しこりや血性の乳頭分泌など)
③上記②の乳房の変化を自覚したら、なるべく早く医療機関を受診する
④ 40歳になったら定期的に乳がん検診を受ける
乳房のセルフチェック
・着替えや入浴、シャワーなどの際に、普段の乳房と変わりがないかという気持ちで気軽に乳房を見て、触って感じてみましょう。
・以下はセルフチェックの例ですが、しこりを探すという行為を意識しすぎず、気軽な気持ちで生活習慣に取り入れましょう。
1. 視診(みる)
・正面、側面、斜めを鏡に写し、両腕を下げた状態、上げた状態で次のことを調べます。
・発疹、ただれ、えくぼ様のへこみ、ひきつれはないか、乳頭の向きの変化はないかを確認します。
2. 触診(さわる)
・触診は、入浴時に行いましょう。
・右乳房の触診は、右腕を頭の後ろにあげて、左手に石鹸をつけ、左手の3本の指の腹で円を描くようにまんべんなく触れてみます。
・肋骨にそって乳房全体を、奥をさわるように指の腹で触れてみます。
・右の乳房を調べたら、左の乳房を同じ要領で調べます。
3. 乳頭からの分泌物のチェック(しぼる)
・左右の乳頭を軽くしぼり、血液や透明または黄色などの分泌物が出ていないかをみます。
・下着の内側が汚れていないかも確認します。
「今までと違う」「しこりを感じる」など異常を感じたら、ためらわず専門医(乳腺外科など)を受診してください。
阿部恭子ほか 編. 乳がん患者ケアパーフェクトブック. 学研メディカル秀潤社, p8, 2017. より作成
*10. 阿部恭子ほか 編. 乳がん患者ケアパーフェクトブック. 学研メディカル秀潤社, p8, 2017.
*11. 日本乳癌学会 編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2023年版, 金原出版, p16-17, 2023.
監修:新倉 直樹 先生
東海大学 医学部 外科学系 乳腺・腫瘍科学 教授
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