治療
治療方針1, 2)
病期分類
肝細胞がんは、がんの大きさや個数、肝臓を通る血管やリンパ管など(脈管)への広がり、リンパ節やほかの臓器への転移などによって、進行度(病期)が決められ、Ⅰ期、Ⅱ期、Ⅲ期、Ⅳ期(ⅣA、ⅣB)に分類されます。
肝細胞がんの病期分類
日本肝癌研究会 編. 臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版. 金原出版, p26-27, 2019.より一部改変して転載
肝予備能の評価
治療方法はがんの病期から検討します。また、肝細胞がんの患者さんの多くはがんとともに肝臓の病気も同時に抱えていますので、肝臓の障害の程度(肝予備能:肝臓の機能がどのくらい保たれているか)も考えながら治療方法を選択します。
肝予備能は、 Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類という分類方法によって評価されます。肝機能の状態によって、A、B、Cの3段階に分けられます。
Child-Pugh(チャイルド・ピュー)分類
日本肝癌研究会 編. 臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版. 金原出版, p15, 2019.より転載
病期・肝障害度と治療
肝細胞がんの治療は、肝切除、ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法(radiofrequency ablation:RFA)、肝動脈化学塞栓(そくせん)療法(transcatheter arterial chemoembolization:TACE/transcatheter arterial embolization:TAE)などから検討されます。また、肝臓の状態が悪い場合やがんの数が多い場合あるいは他の臓器に転移している場合などは、肝動注化学療法、薬物療法、肝移植などを考慮します。
肝細胞がんの治療アルゴリズム
治療法について、2段になっているものは上段が優先される。スラッシュはどちらも等しく推奨される。
*1:肝切除の場合は肝障害度による評価を推奨
*2:Child-Pugh分類Aのみ
*3:患者年齢は65歳以下
*4:遠隔転移や脈管侵襲なし、腫瘍径5cm以内かつ腫瘍数5個以内かつAFP 500ng/mL 以下
日本肝臓学会編「肝癌診療ガイドライン2021年版」2021年,P76,金原出版
1)国立がん研究センター がん情報サービス「肝臓がん(肝細胞がん) 治療」(2024年2月時点)
2)日本肝臓学会 編. 肝癌診療ガイドライン2021年版 第5版. 金原出版, p75-76, 2021.
治療3-5)
手術
手術を行うかどうかは、肝臓の状態が比較的良い場合(肝障害度がAまたはB)で、切除後に肝臓の量をどれだけ残せるかによって判断します。また、Child-Pugh分類Cでは肝移植が勧められています。
1. 肝切除
がんを手術によって取り除く治療です。がんが転移しておらず3個以下で、肝臓の状態が比較的良い場合に選択されます。がんの大きさには特に制限はなく、大きなものであっても、切除が可能な場合もあります。
2. 肝移植
肝臓をすべて摘出して、ドナー(臓器提供者)からの肝臓を移植する治療法であり、肝硬変とがんの両者に対する治療です。わが国では、主に近親者から肝臓の一部を提供してもらう「生体肝移植」が行われています。
3. 手術後の様子
手術直後には、酸素マスクや硬膜外麻酔カテーテルや、ドレーン(手術した場所から出る血液・体液を排出する管)、尿道バルーンカテーテル(尿をためる管)が体につけられていますが、これらは体の状態が改善するにしたがって、徐々に外されていきます。創(きず)が痛む場合は、担当医や看護師による処置で緩和することができます。
4. 合併症
肝臓を切除した面から胆汁が漏れる胆汁漏(たんじゅうろう)や出血が起こることがあります。
また、重篤な合併症である肝不全が起こることがあります。
穿刺(せんし)局所療法
がんに針を刺し治療を行う方法で、手術に比べて体への負担の少ないことが特徴です。現在、肝細胞がんの穿刺局所療法として推奨されているのは、ラジオ波焼灼(しょうしゃく)療法(RFA)です。
1. ラジオ波焼灼療法(RFA)
体の外から特殊な針をがんに直接刺し、通電してその針の先端部分に高熱を加え、がんを焼いて死滅させる治療法です。治療の際は、局所麻酔に加えて鎮痛剤を使用したり、静脈からの麻酔を行います。焼灼時間は10〜30分程度です。
ラジオ波焼灼療法(RFA)
2. その他の療法
従来からの穿刺局所療法として、がんに針を直接刺し、エタノール(アルコール)を注入することでがんを死滅させる経皮的エタノール注入療法(percutaneous ethanol injection therapy:PEIT)があります。
肝動脈化学塞栓療法(TACE)、肝動脈塞栓療法(TAE)
画像で体内を確認しながらカテーテルを入れて、標的となるがんに栄養を運んでいる血管をふさいで、がんを「兵糧攻め」にする治療法です。塞栓療法には、肝動脈化学塞栓療法(TACE)と肝動脈塞栓療法(TAE)があります。
1. 肝動脈化学塞栓療法(TACE)
血管造影に用いたカテーテルの先端を肝動脈まで進め、細胞障害性抗がん剤(以下、抗がん剤)を注入し、その後にゼラチンスポンジやビーズでがんに栄養を運んでいる肝動脈をふさぎます。肝動脈を詰まらせることでがんへの血液の流入を防ぎ、抗がん剤によりがん細胞の増殖を抑えます。
2. 肝動脈塞栓療法(TAE)
肝動脈化学塞栓療法( TACE)と同様に、がんに栄養を運んでいる肝動脈を人工的にふさぐ治療法です。肝動脈塞栓療法(TAE)では、血管造影に用いたカテーテルからゼラチンスポンジやビーズのみを注入します。
肝動脈化学塞栓療法(TACE)および肝動脈塞栓療法(TAE)
薬物療法
肝細胞がんの薬物療法では、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬による全身薬物療法、画像で体内を確認しながらカテーテルを入れて、標的となるがんに抗がん剤を注入する肝動注化学療法での治療を行います。
1. 分子標的薬
分子標的薬は、がん細胞に特徴的な分子(たんぱく質など)を標的にし、正常細胞を傷つけないように、がん細胞の増殖や転移を阻害する薬です。
分子標的薬の作用(イメージ)
2. 免疫チェックポイント阻害薬
がん細胞が増殖するためにかける「免疫機能に対するブレーキ」を解除し、活性化した本来の免疫機能により、がん細胞を攻撃する治療です。活性化された免疫細胞ががん細胞を攻撃します。
3. 肝動注化学療法
肝動脈に入れたカテーテルから、がんに抗がん剤のみを注入し、全身への副作用低減を狙った治療法です。
再発・転移したとき3, 4)
再発とは、治療によりがんがなくなった後、がんがあった場所や他の臓器などに再びがんが出現することをいいます。転移とは、がん細胞がリンパ液や血液の流れなどに乗って別の臓器に移動し、そこで増殖することをいいます。
肝切除による治療後の再発は、肝臓内での再発がほとんどです。その原因としては、肝臓内の血管を介して肝臓内で転移が起こったり、肝切除をしたあとに残った肝臓からの新しい肝細胞がんの発生が考えられています。
1. 再発時の治療の選択
(1) 肝切除や局所療法による治療後に再発した場合
残っている肝臓の量や、肝機能を考慮した上で、初回の治療と同じように肝切除を含めた治療方法を検討していきます。
(2) 肝移植後に再発した場合
がんの状態や再発した部位、患者さんの状態によって異なりますが、可能であれば外科的に切除するか、切除が難しい場合は、薬物療法が行われることがあります。
2. がんが肝臓以外の部位に転移している場合の治療の選択
薬物療法や、転移した場所によっては放射線治療を行うこともあります。
3)国立がん研究センター がん情報サービス「肝臓がん(肝細胞がん) 治療」(2024年2月時点)
4)日本肝臓学会 編. 肝癌診療ガイドライン 2021年版 第5版. 金原出版, p256-285, 2021.
5)日本肝臓学会 編. 肝癌診療マニュアル 第4版. 医学書院, p89-93, 2020.
監修:金子 周一先生
金沢大学大学院 情報医学開発講座 特任教授
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