卵巣がんとは
卵巣とは
卵巣周辺の構造1,2)
卵巣は、子宮の両側に1つずつある楕円形の臓器です。卵巣の重量は20代で最大になり、閉経期になると小さくなり、最大重量の半分以下になります。卵巣と卵管をあわせて子宮付属器と呼びます。
子宮・卵巣の構造(正面図)
卵巣の機能1)
卵巣は卵子の成熟・排卵を行う機能と、女性らしい身体をつくり、それを維持するための女性ホルモンを分泌する機能があります。
卵巣の機能
• 卵子の成熟・排卵
• 女性ホルモンの分泌
1.国立がん研究センター がん情報サービス「卵巣がん 基礎知識」(2018年8月時点)
2.山田律子 他. 東京慈恵会医科大学雑誌 2008; 123: 99-112.
特徴
卵巣にできる腫瘍には良性と悪性(がん)があり、多くは良性です。また、良性と悪性の中間的な性格を持つ境界悪性と呼ばれる腫瘍もあります。一般に「卵巣がん」というときは、悪性の腫瘍を指します3)。
卵巣腫瘍の種類
3.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第2版. 金原出版, p147-148, 2016.
がんの型と広がり
卵巣がんは、その性質(組織型)や広がり方(病期)によって下記のように分類されます。
がんの性質(組織型)による分類4,5)
卵巣がんで最も多いのは、卵巣の表層をおおっている細胞から発生した上皮性のがんです。この上皮性のがんは主に4つの組織型(「漿液(しょうえき)性がん」「明(めい)細胞がん」「類内膜(るいないまく)がん」「粘液性がん」)に分けられ、それぞれ異なった性質をもっています。
上皮性卵巣がんの組織型と特徴4-7)
漿液性がん(約38%)
進行して見つかることが多い
抗がん剤が効きやすい
明細胞がん(約23%)
早期に見つかることが多い
抗がん剤が効きにくい
類内膜がん(約17%)
早期に見つかることが多い
抗がん剤が効きやすい
粘液性がん(約10%)
早期に見つかることが多い
抗がん剤が効きにくい
4.国立がん研究センター がん情報サービス「卵巣がん 基礎知識」(2018年8月時点)
5.日本婦人科腫瘍学会 編. 卵巣がん治療ガイドライン 2015年版. 金原出版, p49-50, 2016.
6.日本産科婦人科学会婦人科腫瘍委員会報告 2015年度患者年報. 日本産科婦人科学会雑誌 2017; 69: 1171-1216.
7.宇津木久仁子 監. 子宮がん・卵巣がん より良い選択をするための完全ガイド. 講談社, p36, 2017.
がんの広がり(病期)による分類8,9)
卵巣がんは、手術前の臨床検査と、生検や手術時の視診・触診・病理学的検査※によって評価したがんの広がり具合により、Ⅰ期からⅣ期までの4つの段階(病期)に分類されます。
※顕微鏡を使って細胞の形を見る検査
8.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第2版. 金原出版, p152-154, 2016.
9.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第2版. 金原出版, p156-157, 2016.
症状
はじめは自覚症状がほとんどないため、進行した状態でみつかることも少なくありません。通常は、おなかが張る、最近太ってウエストがきつくなった、トイレが近い(頻尿)、腹痛、食欲低下、月経不順などの症状があらわれることがあります10-12)。
おなかが張る
下腹部の違和感がつづく
トイレが近い(頻尿)
食欲の低下
10.国立がん研究センター がん情報サービス「卵巣がん 基礎知識」(2018年8月時点)
11.日本産科婦人科学会・日本病理学会 編. 卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約 臨床編 第1版. 金原出版, p14, 2016.
12.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第2版. 金原出版, p150, 2016.
原因13,14)
卵巣がんは、いろいろな要因の積み重ねで発生します。妊娠・出産の経験がない人、初経が早かったり閉経が遅いなどで排卵回数が多い人、子宮内膜症の人は、卵巣がんを発症しやすいと考えられています。また、親・姉妹・従姉妹に乳がんや卵巣がんの人がいる場合、遺伝的な要因(BRCA(ビーアールシーエー)遺伝子の異常など)のため卵巣がんになりやすいことがあります。
13.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第2版. 金原出版, p149-150, 2016.
14.日本産科婦人科学会・日本病理学会 編. 卵巣腫瘍・卵管癌・腹膜癌取扱い規約 臨床編 第1版. 金原出版, p14, 2016.
遺伝性の卵巣がん15,16)
卵巣がんの約10~15%は、遺伝的な要因で発症していると考えられています。その一つに遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC:エイチビーオーシー)があります。女性の親族(血縁のある方)が比較的若い年齢で乳がんや卵巣がんにかかられたことをきっかけに調べて(自費になります)わかることもあります。HBOCの原因遺伝子としてBRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子が知られており、これらの遺伝子に生まれながらに変異があると、卵巣がんや乳がんを発症するリスクが高くなります。
海外の報告では、BRCA遺伝子のBRCA1に変異がある場合は70歳までに40%、BRCA2に変異がある場合は70歳までに18%が卵巣がんになるとされています。
15.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第2版. 金原出版, p241-242, 2016.
16.厚生労働科学研究がん対策推進総合研究事業「わが国における遺伝性乳癌卵巣癌の臨床遺伝学的特徴の解明と遺伝子情報を用いた生命予後の改善に関する研究」班 編. 遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)診療の手引き 2017年版. 金原出版, p14, 2017.
患者数
患者数の推移17)
卵巣がんの患者数は年々増加し、国内では年間約10,000人が新たに卵巣がんになっていると推定されています。
卵巣がん:患者数*の推移(全国推計値/女性 1975~2014年)
*年間に卵巣がんにかかる人数
国立がん研究センター がん情報サービス「がん登録・統計」(2018年9月時点)より作成
年代別の患者数17)
40歳を過ぎると患者数が増加します。その後、60代前半で最も多くなり、以降は、加齢とともに次第に減少します。
卵巣がん:年代別の患者数*(全国推計値/女性 2014年)
*年間に卵巣がんにかかる人数
国立がん研究センター がん情報サービス「がん登録・統計」(2018年9月時点)より作成
17.国立がん研究センター がん情報サービス「がん登録・統計」(2018年9月時点)
臨床指導:木村 正 先生
大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学教室 教授
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