治療
手術療法
子宮体がんの手術療法は、子宮全摘出術+両側付属器切除術を基本として、骨盤・傍大動脈リンパ節郭清が検討されます。筋層浸潤などがあり、進んでいると推定される場合には、リンパ節の摘出術(郭清)が行われます。
子宮全摘出術1)
子宮を摘出する方法には、3つの術式があります。単純子宮全摘出術、準広汎子宮全摘出術、広汎子宮全摘出術です。
単純子宮全摘出術は3つの中で最も摘出範囲が狭い術式です。子宮と子宮を支える靭帯や組織を摘出しますが、子宮に近いところから切断します。ただし、子宮体がんは卵巣へ転移することも多いため、卵巣と卵管も一緒に取る(両側付属器切除)場合がほとんどです。
準広汎子宮全摘出術は、より広く腟壁(ちつへき)と周囲の組織を切除します。
広汎子宮全摘出術は、もっとも広い範囲を切除する術式です。がんが子宮頸部まで広がっている場合に行われます。骨盤近くからさらに広く周囲の組織を切断するほか、腟壁の一部もより大きく取り去ります。また、ほとんどの場合、骨盤内のリンパ節も摘出します。

1.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん 治療ガイドライン第3版. 金原出版, p85-88, 2023.
リンパ節の摘出(郭清(かくせい))2)
子宮体がんが筋層に浸潤していたり、進んでいる状態が推定される場合には、がんの進行度をより詳しく調べるために、子宮を取り除くだけでなく、がんの周辺にあるリンパ節を切除します。子宮体がんでは骨盤内や腹部大動脈周囲(ふくぶだいどうみゃくしゅうい)のリンパ節を摘出します。がんがあまり広がっていない場合には、リンパ節郭清を省略することもあります。

2.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん 治療ガイドライン第3版. 金原出版, p94,95, 2023. より改変
腹腔鏡下手術3)
お腹に5ミリから12ミリの小さな穴を4、5ヵ所あけ、おへそのところから入れた筒(トロカー)からカメラや鉗子(かんし:組織などをはさむ器具)を入れて、モニターを見ながら手術を行います。傷が小さくてすみ、術後の痛みが軽減されるため、早期の社会復帰が期待できます。
腹腔鏡下手術におけるトロカーの挿入位置例

3.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん 治療ガイドライン第3版. 金原出版, p90-93, 2023.
手術後の合併症4, 5, 6)
リンパ節郭清を行った場合は、下肢のリンパ浮腫、リンパ嚢胞(のうほう)、腸閉塞などの合併症を起こすことがあります。下肢のリンパ浮腫は、下腹部、陰部、脚の付け根(内もも)の辺りがむくみやすくなります。症状は、片側の下肢のむくみを自覚して発見されることが多いですが、必ずしも肉眼的な下肢のむくみを伴っているわけではなく、違和感のみで蜂窩織炎(ほうかしきえん)を発症して初めて診断に至る場合もあるため注意が必要です。リンパ浮腫を予防するには日頃のチェックが大切です。足を観察し、以前より静脈が見えにくくなっていないかチェックしましょう。「指でつまんでもしわがよりにくい」「左右で厚みに違いがある」「靴下や下着の跡が残りやすい」といった変化があれば要注意です。1ヵ月に1度、両脚の太さを計測するのもよいでしょう。また、リンパ浮腫の予防の重要な役割を担っているのは患者さん自身です。足のむくみに気づく前から、自分自身でできる、スキンケア(蜂窩織炎の予防)、衣類の選択(圧迫の強い下着や衣類の着用などは避ける)、体重の管理、適切な運動、生活環境の改善を意識することがとても大切です。
リンパ浮腫は、治すことが難しいとされていますので、予防と、悪化を防ぐことがきわめて重要です。
むくみがあれば悪化しないよう皮膚の清潔を保ち、乾燥やケガ、虫刺されを防ぐようにします。体重増加に気をつけ、バランスのよい食生活を心がけることも大切です。アルコールや刺激物の摂り過ぎも禁物です。また、日常生活では衣服や装飾品で体を締め付けないよう注意しましょう。
手術後に伴う腸閉塞には、麻痺性イレウスと癒着性イレウスがあります。麻痺性イレウスは、術後の早期に、腸の蠕動運動が手術により一時的に低下・消失することにより生じます。症状として、お腹の膨れた感じ、吐き気・嘔吐、尿量の低下などがありますが、絶食や輸液の投与などの保存的治療によって1週間程度で改善します。
一方、癒着性イレウスは、手術による癒着が腸の通過障害をきたすことにより生じます。症状として、便秘、腹痛、お腹の膨れた感じ、吐き気・嘔吐などがあります。保存的治療で改善しない場合は、イレウス管の挿入や手術が必要になります。
リンパ浮腫の起こりやすい場所

脚の太さの計測場所

4.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん 治療ガイドライン第3版. 金原出版, p205-208, 2023.
5.国立がん研究センター がん情報サービス「リンパ浮腫 もっと詳しく」(2024年9月11日時点)
6.日本婦人科腫瘍学会 編. 女性のがんサバイバーフォローアップQ&A. メジカルビュー社 P12-20, 27, 2024
術後再発リスクの分類6)
子宮体がんでは、まず手術前の検査で進行期を予測し、実際に手術で摘出した組織を調べます。術後に改めて手術進行期を決め、その後の治療方針を立てます。このとき、評価するのが個々の患者さんの「術後再発リスク」です。再発リスクを決める要因にはいろいろなものがあり、その組み合わせによって「再発低リスク群」「再発中リスク群」「再発高リスク群」に分かれます。

6.日本婦人科腫瘍学会 編. 子宮体がん治療ガイドライン2023年版. 金原出版, p40, 2023.
薬物療法
化学療法(抗がん剤による治療)7)
子宮体がんでは、術後、中・高リスク群と診断された場合は、追加治療(補助療法)が必要となります。追加治療としては、化学療法(抗がん剤治療)が主に行われます。これは、再発を抑えるために行うもので、手術でも摘出できなかったような目に見えないがんをやっつけるために行います。
また、がんが広がっていて、手術ができないような場合や再発した場合にも化学療法を行うことがあります。代表的なものとして、がん細胞のDNA合成を阻害してがんの増殖を抑えるプラチナ製剤や、がん細胞の細胞分裂を阻害してがんの増殖を抑えるタキサン系製剤などがあります。ほとんどの場合は、抗がん剤を組み合わせて使われます。
7.日本婦人科腫瘍学会 編. 子宮体がん治療ガイドライン2023年版. 金原出版, p22,23,40-43, 2023.
免疫チェックポイント阻害薬
免疫は、細菌やウイルス、がん細胞などの異物を攻撃して排除するようさまざまな働きをします。また、働きが過剰になりすぎると、体を傷つけてしまうため、免疫機能にブレーキをかける仕組みも備わっています。
がん細胞はこの仕組みを利用して、免疫機能に対するブレーキをかけることで、免疫細胞の攻撃から逃れていることがあります。
免疫チェックポイント阻害薬は、「免疫機能に対するブレーキ」を解除し、活性化した本来の免疫機能により、がん細胞を攻撃します。

化学療法を行っても効果がなかった方で、ある特徴を持った子宮体がんの場合(高頻度マイクロサテライト不安定性※を有する場合)には、免疫チェックポイント阻害薬が効果があることがあります。
※DNAは、細胞が分裂する際や損傷を受けた際の修復時に、まったく同じものが複製されます。DNA複製時には一定の確率でミスが生じますが、本来これらのミスは修復され、元通りになります。しかし、ミスを修復するしくみが働かず、ミスが積み重なり、異常な細胞が増えてがんになる場合があります。DNAのミスを修復するしくみが働かないようながんでは、DNAのマイクロサテライトと呼ばれる場所で複製ミスが積み重なっていることが知られており、この状態を「高頻度マイクロサテライト不安定性」といいます。
分子標的治療薬
細胞に増殖を命令するスイッチのような分子や血管を新たに作る分子の働きを阻害することで、がんの増殖を抑える治療です。
がん細胞に特徴的な分子を標的として攻撃し、増殖を抑えます。

黄体ホルモン療法8,9)
黄体ホルモン療法は、大量の黄体ホルモンを投与することにより、がん細胞を正常細胞に分化誘導する治療法です。一般に用いられるのは経口黄体ホルモン製剤という内服薬です。おもな副作用に血栓症があり、過去に血栓症になったことがある人、肥満の人、ほかのホルモン剤を服用している人などは、黄体ホルモン療法を行うことができない場合があります。
黄体ホルモン療法(MPA療法)は、妊孕性(にんようせい:妊娠できる機能)を温存する治療法で、妊娠を強く希望する若い(40歳未満)患者さんにおいて、治療の選択肢の1つとなります。
具体的に対象となるのは、がん化することの多い子宮内膜異型増殖症(しきゅうないまくいけいぞうしょくしょう)の患者さん、もしくはごく早期の子宮体がんで妊孕性温存希望のある患者さんです。

8.日本婦人科腫瘍学会 編. 子宮体がん治療ガイドライン2023年版. 金原出版, p160-167, 2023.
9.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん 治療ガイドライン第3版. 金原出版, p114-117, 2023.
薬物療法中の副作用の対応について10,11)
抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常細胞にも作用を及ぼすため、様々な副作用がでやすいことが知られています。また、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療薬、黄体ホルモン療法も、それぞれ特徴的な副作用が起こることがあります。
副作用の現れ方には個人差がありますので、つらい場合は我慢せず、主治医や看護師、薬剤師に相談してください。また、治療効果を十分得るには、治療を適切に続けることも大切です。治療中の注意点や副作用の対策について、医師や看護師、薬剤師に事前に確認しておくとよいでしょう。
10.国立がん研究センターがん対策情報センター 編. 患者必携 がんになったら手にとるガイド普及新版. 学研メディカル秀潤社, p139-149, 2017.
11.日本臨床腫瘍学会 編. がん免疫療法ガイドライン第3版. 金原出版, p38-42, 2023.
初回治療の経過観察
経過観察の期間と間隔12)
子宮体がんは治療終了してから5年以後にも、再発する可能性のある疾患です。一通り治療を受けた後も、定期的に診察を受けるようにしましょう。経過観察することで、再発や転移、さらに術後の合併症を早く見つけられます。
標準的な経過観察の目安
●1~3年目 ⇒ 3~6ヵ月ごとに1回
●4~5年目 ⇒ 6~12ヵ月ごとに1回
日本婦人科腫瘍学会 編. 子宮体がん治療ガイドライン2023年版. 金原出版, p150-153. 2023.
経過観察中に行われる検査項目12)
内診、直腸診、腟断端細胞診(ちつだんたんさいぼうしん)、経腟超音波断層法、腫瘍マーカー測定、胸部X線などを組み合わせて行います。再発の可能性が高い場合は、CT、MRI、PET-CTといった画像検査をすることもあります。
子宮体がん治療後の再発・転移を早期に発見するための検査

12.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん 子宮体がん 卵巣がん 治療ガイドライン第3版. 金原出版, p104-107. 2023.
監修:田畑 務 先生
東京女子医科大学 産婦人科 教授・講座主任
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