腎盂・尿管がんとは
腎盂・尿管とは：「腎盂」と「尿管」はどんな役割をするの？
「腎臓（じんぞう）」は、にぎりこぶしくらいの大きさで、腰よりすこし上の背中側にある左右一対（２個）の臓器です。血液中の老廃物や余分な水分は、腎臓の一部である「腎実質」で除かれ、尿として排出されます。そして尿は「腎盂（じんう）」、「尿管（にょうかん）」を通り、「膀胱（ぼうこう）」へと流れます。膀胱は下腹部にある袋状の臓器で、尿を一時的にためておくことができます。
図 泌尿器
尿が腎盂を通り、体の外に出されるまでの通り道を「尿路（にょうろ）」といい、内部は「尿路上皮（にょうろじょうひ）」という粘膜でおおわれています。
特徴：「腎盂・尿管がん」はどんな病気？
腎盂や尿管に発生するがんを「腎盂（じんう）・尿管（にょうかん）がん（腎盂がん、尿管がん）」といいます。また、尿路の上部にできるがんであることから「上部尿路（じょうぶにょうろ）がん」ともいわれます。腎盂・尿管がんの大部分は「尿路上皮がん」という組織型（そしきけい）で、そのほかには、「腺（せん）がん」、「扁平上皮（へんぺいじょうひ）がん」などがあります。尿路上皮は腎盂から尿管、膀胱、尿道へとつながっているため、尿路上皮がんは腎盂・尿管だけでなく、膀胱や尿道にも発生します。
腎盂・尿管がんの罹患者（りかんしゃ）はとても少なく、尿路上皮にできるがんの5~10%が腎盂・尿管がんで、残りの90~95%が膀胱がんです。
図 尿路上皮がんの部位別発症率
日本泌尿器科学会 編. 腎盂・尿管癌診療ガイドライン 2023年版. 医学図書出版, p50, 2023.より作図
一度、尿路上皮にがんが発生すると、尿路上皮のあるほかのところにもがんができやすいという特徴があります。たとえば、腎盂・尿管がんと同時に膀胱がんがみつかったり、将来的に膀胱がんができたりする可能性があります。このことから、腎盂・尿管がんがみつかった場合は、膀胱にもがんができていないか検査をします。
がんの型と広がり：「腎盂・尿管がん」にはいくつか種類があるの？
「腎盂・尿管がん」には外見によって「乳頭型」や「結節型」、「平坦型」、「潰瘍型」などの型に分類されます。
図 尿路上皮がんの形態の模式図
日本泌尿器科学会, 日本病理学会 他．泌尿器科・病理・放射線科 腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約
第2版. 医学図書出版, p10-12, 2021.より改変
また、がんの広がり方もさまざまで、粘膜（尿路上皮）で広がっている状態、粘膜の下の筋肉の層（筋層）まで入りこんでいる状態、肺や肝臓、骨などに転移している状態があります。
図 尿路上皮がんの進行の様子
Babaian RJ, et al. Urology 1980; 16: 142-144.
山本新吾. 泌尿器 Care＆Cure Uro-Lo 2016; 21: 456-458.より作成
症状：「腎盂・尿管がん」の症状は？
腎盂・尿管がんの一般的な症状として、血尿や腰・背中に痛みがみられることがあります1）。
- 尿に血が混じる （血尿）
尿路内のがんから出血することで起こると考えられている。
- 背中や腰が痛む （腰背部痛）
がんや血の固まりが、尿管（腎臓から膀胱に尿をはこぶ管）をふさいでしまい、たまった尿が腎臓や尿管に圧力をかけるために起こる。
1）井上克己 他. 昭和学士会誌 2016;76:108-115.
原因：「腎盂・尿管がん」の原因は？
腎盂・尿管がんの原因として、いくつかの因子との関連性が知られています2, 3）。
喫煙との関連
喫煙は最も重要な危険因子とされており、喫煙者の腎盂・尿管がんの発症リスクは、非喫煙者と比べ約3倍高くなるといわれています。
原因となる化学物質との関連
染料などに用いられる化学物質（芳香族（ほうこうぞく）アミン類）や、石油や木炭、アスファルト、タールなどを仕事で扱っている人は、腎盂・尿管がんの発症リスクが高くなることがわかっています。
2）McLaughlin JK, et al. Cancer Res 1992; 52: 254-257.
3）日本泌尿器科学会 編. 腎盂・尿管癌診療ガイドライン 2023年版．医学図書出版, p50-51, 2023.
患者数：「腎盂・尿管がん」の患者はどのくらいいる？
腎盂・尿管がんのみの罹患率は明確に示されていませんが、腎盂・尿管がんを含む腎・尿路がんと診断された患者数は2019年では30,458例（男性20,678例、女性9,780例）と報告4）されており、男性は女性より2倍以上多く発症しています。
図 主要ながんの罹患数
国立がん研究センターがん情報サービス 「がん統計」（全国がん登録）（2023年3月参照）より作図
また、2020年の腎・尿路がんによる死亡数は9,712例でした4）。
4）国立がん研究センターがん情報サービス 「がん統計」（全国がん登録）（2024年4月参照）
監修：小林 恭 先生
京都大学医学研究科 泌尿器科学教室 教授
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