治療
治療方針1,2)
卵巣がんの広がり具合を表す進行期に準じて、患者さんの希望や体の状態にあった治療を、医師と患者さんが話し合って決めていきます。
いずれの進行期であっても、最初に手術を行ってできるだけがんを取り除き、その後、薬物療法(化学療法)を行うのが基本です。しかし、がんを完全に摘出できない場合は、薬物療法(化学療法)でがんを小さくしたのちに手術を行う場合があります。
1.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第3版. 金原出版, p155-161, 2023.
2.国立がん研究センター がん情報サービス「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」(2026年4月7日時点)
手術
標準的な手術3-5)
卵巣がんの手術は、両側の卵巣と卵管の摘出+子宮の摘出+大網(だいもう)の切除が基本となります(下図で赤く囲った部分)。大網とは、胃の底から下がっている脂肪の膜のことです。
リンパ節も転移しやすい部位ですが、がんが転移しているかどうかは摘出して検査をしないとわかりません。そのため、卵巣周囲のリンパ節(後腹膜リンパ節:傍(ぼう)大動脈リンパ節+骨盤リンパ節)(下図で紫色で囲った部分)の摘出も同時に行われます。そのほか、腹水や腹腔(ふくくう)組織の細胞の採取を行い、がんの広がりを調べます。
卵巣がんの手術範囲3,5)
3.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第3版. 金原出版, p155-161, 2023.
4.国立がん研究センター がん情報サービス「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」(2026年4月7日時点)
5.宇津木久仁子 監. 子宮がん・卵巣がん より良い選択をするための完全ガイド. 講談社, p66-67, 2017.
妊孕性(にんようせい)温存手術6,7)
卵巣がんから患者さんを救命するために最も重要な治療は、両側の卵巣と卵管の摘出+子宮の摘出+大網の切除+卵巣周囲のリンパ節の摘出をする標準的な手術を行うことです。
しかし、妊娠の可能性を残したいと強く願う場合や、がんの性質がおとなしく、片方の卵巣・卵管だけにとどまっている場合などには、がんがある方の卵巣・卵管を摘出して、がんのない方の卵巣・卵管と子宮を残す手術(妊孕性温存手術)ができることもあります。
妊孕性温存手術が可能かどうかを判定するためには、開腹手術でがんを可能な限り完全に切除し、病理検査で進行期と組織型を調べる必要があります。手術後1~3週間してからわかる最終病理診断の結果によっては、再び手術(子宮と残した卵巣・卵管の摘出)が必要になる場合もあります。
妊孕性温存手術を検討するときには、自分のがんの状態やリスクについて十分理解すること、妊娠の可能性への自分の気持ちを主治医にしっかり伝え、よく相談することが必要です。
6.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第3版. 金原出版, p166-169, 2023.
7.国立がん研究センター がん情報サービス「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」(2026年4月7日時点)
術後の合併症8,9)
手術で両側の卵巣を摘出すると、卵巣から分泌される女性ホルモンが消失します。それに伴い、のぼせやほてり、発汗、肩こり、腰痛、頭痛、性交痛、抑うつ、不安、イライラ、不眠、意欲の減退など「卵巣欠落症状」と呼ばれる更年期のような症状がでることがあります。また、将来的に骨粗鬆症、動脈硬化や心筋梗塞などのリスクが高まり、QOL(生活の質)が低下する可能性があります。これらに対して、定期的な検診や、ホルモン補充療法、漢方薬といった治療法で対応します。
また、リンパ節を摘出することで、リンパの流れが悪くなって下腹部や足がむくんだり(リンパ浮腫)、骨盤内にリンパ液のたまった袋(リンパ嚢胞)ができることがあります。現在のところリンパ浮腫の確実な予防法はありませんが、自分でできる工夫には、適度に体を動かしてリンパ液の流れを促すことや、適切な体重を維持すること、スキンケアを行い感染を予防することなどがあります。リンパ浮腫を早く見つけて治療をするためには、おなかや足がむくんでいないか確認することが大切です。
8.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第3版. 金原出版, p205-212, 2023.
9.国立がん研究センター がん情報サービス「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 療養」(2026年4月7日時点)
薬物療法
化学療法(抗がん剤)10,11)
卵巣がんの手術後には、抗がん剤治療を行うのが基本です。2種類の抗がん剤(プラチナ製剤とタキサン系製剤)を組み合わせたTC療法が標準療法とされ、点滴で投与します。何らかの理由によりTC療法が行えない場合には、ほかの薬剤による治療を検討します。
10.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第3版. 金原出版, p170-172, 2023.
11.国立がん研究センター がん情報サービス「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」(2026年4月7日時点)
分子標的薬12-14)
分子標的薬は、がん細胞の発生や増殖に関わるタンパク質などのさまざまな分子を標的として、その機能を抑えることでがんを攻撃する薬です。
抗がん剤と併用したり、抗がん剤による治療が終わった後にがんの再発を防ぐために行う「維持療法」として使用します。
現在、卵巣がんに使用される分子標的薬は、血管新生阻害薬とPARP(パープ)阻害薬の2種類があります。
抗がん剤と分子標的薬の作用(イメージ)
▶血管新生阻害薬
がんはみずから血管をつくって、栄養を奪いながら大きくなります。血管新生阻害薬は、血管をつくるためのタンパク質であるVEGFの働きを抑えることで、がんが大きくなるのを防ぎます。点滴で投与します。
▶PARP阻害薬
細胞にはDNAの傷をなおすしくみが備わっており、そのひとつにPARPというDNA修復酵素が関わるものがあります。PARP阻害薬はこの働きを妨げることで、がんの増殖を抑えます。飲み薬です。
12.日本婦人科腫瘍学会 編. 患者さんとご家族のための子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がん治療ガイドライン 第3版. 金原出版, p179-182, 2023.
13.国立がん研究センター がん情報サービス「卵巣がん・卵管がん・腹膜がん 治療」(2026年4月7日時点)
14.国立がん研究センター がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」(2026年4月7日時点)
免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)15)
免疫療法は、細菌やがん細胞などの異物を攻撃する免疫の働きを利用した治療法です。免疫には、異物への攻撃を過剰にして体にダメージを与えないように、ブレーキをかけるしくみも備わっています。がん細胞にはこのしくみを利用して、免疫による攻撃から逃れるタイプのものがあります。免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫の働きにブレーキをかけることを防いで、免疫に本来の働きを取り戻させる薬です。免疫チェックポイント阻害薬そのものは、直接がん細胞を攻撃することはありませんが、免疫機能を高めることでがん細胞を間接的に減らします。点滴で投与します。
15.国立がん研究センター がん情報サービス「薬物療法 もっと詳しく」(2026年4月7日時点)
薬物治療中の副作用の対応について16)
抗がん剤は、がん細胞だけでなく正常細胞にも作用を及ぼすため、さまざまな副作用が出やすいことが知られています。また、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬も、それぞれ特徴的な副作用が起こることがあります。
副作用のあらわれ方には個人差がありますので、つらい場合は我慢せず、主治医や看護師、薬剤師に相談してください。また、治療効果を十分得るには、治療を適切に続けることも大切です。治療中の注意点や副作用の対策について、医師や看護師、薬剤師に事前に確認しておくとよいでしょう。
16.国立がん研究センター がん対策研究所 編. 国立がん研究センターのがんになったら手にとるガイド, 小学館クリエイティブ, p72-73, p90-93, 2025
監修:梶山 広明 先生
名古屋大学 医学部 産婦人科 教授
がんについて知る
がんについて、どのがん種にも共通して役立つ情報を提供しています。